コンテンツ警告
この本では、トラウマやPTSDなどのトリガーとなるコンテンツ(内容)が書かれています。以下の項目に関連する用語が使用されていたり、具体例が掲載されている場合があります。ご自身の体調に合わせて無理なく読み進めてください。
→性差別や性暴力
→ドメスティック・バイオレンス(DV)
→虐待
→人種に基づいた差別や暴力
→戦争
1 はじめに
私たちは、人々が自分自身の人生の専門家であることを信じ、人々が被害から変革への道を切り開くことに信頼を置かなければいけない。
1.0.はじめに
あなたがこれを読んでいるということは、あなた自身の人生または大切な人の人生が対人暴力、ドメスティック・バイオレンス(DV)、性的虐待・暴行、家族内暴力などの影響にさらされているのかもしれません。もしかすると、危機に直面していて、何をすべきかわからないけれども、切迫して何かする必要を感じているのかもしれません。または、暴力が発生している状況に対処しようとしていて、何をすべきかについて、アイデアや情報が欲しいのかもしれません。あなたがこのツールキットにたどり着いたのは、安全を求めているけれども、警察に連絡することがあなたにとって安全な選択肢ではないからかもしれません。あるいは、あなた自身が虐待をしていたり、暴力を振るっていたりしていて、自分を変えていくためのサポートを探しているのかもしれません。
このツールキットは、暴力に対処し、軽減し、終わらせ、さらには暴力を予防するために私たちが取ることができるステップを考えるのに役立ちます。私たちはこれを暴力への介入と呼んでいます。
このツールキットは、孤立を打破し、暴力の影響を最も受けている人たち(暴力のサバイバーと被害者、友人、家族、コミュニティ)から暴力に対する解決策を生み出す方法として、暴力へのコミュニティを基礎とした介入*2、あるいはコミュニティ・アカウンタビリティ*3や変革的正義(トランスフォーマティブ・ジャスティス)*4と呼ばれるアプローチを推進しています。地に足の着いた、思慮あるコミュニティによる対応を創り出すために、自分たちの周りにいる人々に目を向け、集まることを呼びかけます。自分のコミュニティからの分離・分断のみに解決策を求めるのではなく、私たちが持つつながりや思いやりを土台と考えます。私たちに危害を加える人たちをも、その危害を止めるための潜在的なアライとして、また暴力の解決に向けて態度や行動を根本から変えるための積極的なパートナーとして、巻き込むように勧めています。これは暴力の概念とその解決策が個人間のものからコミュニティ(身近で親密なコミュニティと、私たちが属するより広いコミュニティの両方を指す)を包含するものへと展開していくことを指しています。
このツールキットは、私たちのコミュニティが何世代にもわたって、暴力を終わらせるための創造的な対応を行ってきたという知見に基づいています。助けを必要としている人に直面したとき、私たちのおば、おじ、いとこ、友人や隣人、宗教的な指導者、そしてあらゆる世代の人々が、暴力に対処し、減らし、終わらせ、また予防するための方法を考え出してきました。私たちクリエイティブ・インターベンションズ(Creative Interventions)は、このような最善の努力と成功、そして過ちや失敗から得た教訓を土台にしています。しかし私たちを守ってくれるはずだった警察や政府機関に目を向ければ向けるほど、こういった教訓は無視されてきました。
私たちがコミュニティを基盤とした介入と呼ぶものを中心に据えることで、私たちの固有の歴史と私たち自身の専門知識、そして暴力を終わらせるための私たちの大切な役割の重要性を心に留めておくことができます。
対人暴力、私たちの意味するところ…
- 婚姻関係、事実婚*5、交際関係、元交際関係など、親密な関係の中で起こるドメスティック・バイオレンス(DV)や親密なパートナーからの暴力。
- 家族内で発生する暴力には、親密なパートナー間での家庭内暴力だけでなく、子ども、両親、孫、祖父母、その他の家族、そして家族ぐるみで付き合いのある友人、後見人、介護者/介助者などのように家族と非常に近しい関係にある人々にも及ぶ可能性があります。
- 性的暴力とは、性的暴行、強姦、セクシャル・ハラスメント、性的嫌がらせ、児童性的虐待、近親相姦など、望まれない性的な態度、接触、行為を含みます。
- 児童虐待とは、ネグレクト(育児放棄)、精神的虐待、身体的虐待、性的虐待を含みます。私たちは大人と子どもの間のあらゆる形態の性的行為を虐待と見なします。
- 高齢者虐待とは、高齢者に対するあらゆる形態の虐待を指します。
クリエイティブ・インターベンションズは、上記のような暴力に焦点を当てていますが、このツールキットは近隣、学校、組織、職場、その他の雇用関係など、他の環境で暴力を経験している人々にも役立つ可能性があります。これらの暴力の形態も対人関係の一環と見なすことができます。
詳しくは、第2章2節「対人暴力:みんなが知っておくべき基礎知識」
をご覧ください。
対人暴力は、他者に対して権力と支配を行使する非常に一般的な手段です。暴力はしばしば不平等な力関係を利用します。このため、男性が女性や少女に対して、少年が少女に対して、男性として自己認識する人が女性として自己認識する人に対して、成人が若者や子どもに対して、健常者が障害のある人に対して、市民が移民に対して、合法的な移民が無登録移民に対して、高い社会的地位を持つ人が低い地位の人に対して、裕福な人が貧しい人または経済的に依存している人に対して、対人暴力が頻繁に行われるのです。
*1:訳注: 原著(https://www.creative-interventions.org/toolkit/)では、全体の構成として、節の表記が0節から始まっています。例えば、第2章0節、第2章1節、第2章2節……というように。第1章は原著の誤字で1節が抜けており、第1章0節(1.0.)の次が、第1章2節(1.2.)となっています。&commons翻訳チームによる日本語訳版も、原著に揃えました。従って、第1章1節(1.1.)はありません。
*2:訳注: コミュニティを基礎とした介入
日本語で検索するといろいろヒットしますが、私たちがここで翻訳していて、みなさんと分かち合いたいのはこちらのリンクの団体とこちらで考案、紹介されているものです。
これから本文で詳しく紹介されるものなので、今後ブログ記事などで共有します。
https://www.creative-interventions.org/(最終確認日2024年5月8日)
*3:訳注: コミュニティ・アカウンタビリティ
暴力をなくすための米国のリソースハブ、TransformHarm.orgのサイトを参照すると理解が深まります。
https://transformharm.org/community-accountability/?_sft_ca_category=ca-articles (最終確認日2024年5月8日)
「コミュニティ・アカウンタビリティとは、人のつながりやコミュニティを強化し、暴力が起きている状況を解決するための責任が相互にあることを強調することで、暴力の予防、暴力への介入、対応、癒しを目指す取り組みです。安全面から、米国の公的な制度を利用できない状況が多く想定されています。」(下記の本文から抄訳しています。)
“Community Accountability (CA) strategies aim at preventing, intervening in, responding to, and healing from violence through strengthening relationships and communities, emphasizing mutual responsibility for addressing the conditions that allow violence to take place, and holding people accountable for violence and harm. This includes a wide range of creative strategies for addressing violence as part of organizing efforts in communities when you can’t or don’t want to access state systems for safety.”
– The Audre Lorde Project, National Gathering on Transformative and Community Accountability, 9/2010
*4:訳注: 変革的正義(トランスフォーマティブ・ジャスティス)
同じく暴力をなくすための米国のリソースハブ、TransformHarm.orgのサイトを参照すると理解が深まります。https://transformharm.org/tj_resource/transformative-justice-a-brief-description/(最終確認日2024年5月8日)
「変革的正義(トランスフォーマティブ・ジャスティス)とは、暴力、危害、虐待に対応するための政治的枠組みであり、アプローチです。その最も基本は、暴力をこれ以上生み出すことなく、暴力に対応すること、および/または暴力を軽減するために害の軽減に取り組むことです。この方法では、1)国家(警察、刑務所、刑事法制度、里親制度など)に依存しません。」(下記の本文から抄訳しています。)
Transformative Justice (TJ) is a political framework and approach for responding to violence, harm and abuse. At its most basic, it seeks to respond to violence without creating more violence and/or engaging in harm reduction to lessen the violence. TJ can be thought of as a way of “making things right,” getting in “right relation,” or creating justice together. Transformative justice responses and interventions 1) do not rely on the state (e.g. police, prisons, the criminal legal system, I.C.E., foster care system (though some TJ responses do rely on or incorporate social services like counseling); 2) do not reinforce or perpetuate violence such as oppressive norms or vigilantism; and most importantly, 3) actively cultivate the things we know prevent violence such as healing, accountability, resilience, and safety for all involved.
https://transformharm.org/tj_resource/transformative-justice-a-brief-description/
以下は参考になるURLです。
An Overview of the History and Theory of Transformative Justice
(変革的正義の歴史と理論の概要についての一論考)
http://www.antoniocasella.eu/restorative/Nocella_2011.pdf
Discover Restorative and Transformative Justice(修復的正義と変革性正義の発見)
Sexual Assault Centre of Edmonton
https://www.sace.ca/learn/restorative-and-transformative-justice/
似た概念のRestorative Justiceについて
法心理研究プロジェクト「「犯罪という現象」から学ぶことのできる社会のあり方を目指して―Restorative Justice(RJ)(回復的・修復的司法)とは何か」
https://www.ritsumeihuman.com/essay/essay-1219/
論説 修復的正義における批判と実践| Arrigo の修復的正義論の検討|
https://www.waseda.jp/folaw/icl/assets/uploads/2014/05/A04408055-00-041020163.pdf
*5:訳注: 事実婚
ジェンダーを問わず非婚姻状態で生活や暮らしを共にしている状態。同棲したり共同生活をしているのは男女のカップルだけではないことがこの一般的な言葉の背景には存在していることを強調しておきたいと思います。
英語のドメスティック・パートナー(domestic partner)という言葉の歴史は同性婚の歴史と深く関係しています。こちらのサイトをご確認ください。
LGBTQ用語解説 ドメスティック・パートナー法
https://www.outjapan.co.jp/pride_japan/glossary/ta/1.html
https://www.asahi-net.or.jp/~km5t-ootk/taqo_text/gfd9_domepa.html ※個人ブログですが、ゲイ雑誌「バディ」掲載文章という表記があったため参考にしました。
(最終確認日2024年5月6日)