The &commons Blog

私たち&commonsは、アーティストが多様な芸術活動を続けていくための知識やネットワークを、コモンズ(共有財産)として分かち合うことを目的にしたコレクティブです。

『クリエイティブ・インターベンションズ・ツールキット』1.4. このツールキットには何が書かれていますか?

コンテンツ警告

この本では、トラウマやPTSDなどのトリガーとなるコンテンツ(内容)が書かれています。以下の項目に関連する用語が使用されていたり、具体例が掲載されている場合があります。ご自身の体調に合わせて無理なく読み進めてください。

 

→性差別や性暴力

→ドメスティック・バイオレンス(DV)

→虐待

 

1.4. このツールキットには何が書かれていますか?

このツールキットは以下のように章立てされています。

 

第1章. 「序論」

あなたが今読んでいるのは、定義、ビジョン、目的などを含むこのツールキットの概要が書かれている「序論」です。

第2章. 「誰もが知っておくべき基礎知識」

あなたが暴力に対してどうしたいのかを考えたり、このツールキットの活用を考えるうえで、知っておきたい大切な知識を紹介しています。誰もが知っておくべき基礎知識には以下のようなものがあります。

  • 対人暴力に対するコミュニティを基盤とした介入とは?
    この章では、本著における暴力介入のアプローチの基本についてより詳細な議論を説明します。

  • 対人暴力について誰もが知っておくべき基礎知識
    私たちの社会は対人暴力についての誤った情報を流し続けています。この章では、対人暴力の力関係についての重要な情報を概説します。この概要は、より効果的な対応をするのに役に立つでしょう。

  • 暴力への介入についての大事な教訓
    この章では私たちクリエイティブ・インターベンションズが、3年間以上のプロジェクトで暴力への介入について学んできた基本的な教訓を紹介します。この教訓は、暴力に対して同じような対処法を創造してきた他団体と共有されてきた多くの教訓を基にしたものです。この多くは「まえがきと謝辞」2節「ひとつのコミュニティの努力」に記載されています。


第3章. 「モデルの概要:このモデルはあなたに合うものでしょうか?」

第3章では、あなたが今直面しているかもしれない暴力についてもっと慎重に考えるきっかけをつくり、この手法があなたに適切なものかどうか検討するのに役立ちます。このモデルは、あなたが置かれた暴力の状況や、価値観やリソース、そしてすすんで取りたいと思う行動のアイデアを刺激し、より深く考えるきっかけとなるでしょう。

 

第4章. 「組み合わせ自由なツール」

この章には、あなたが暴力に介入した場合の様々な局面をやりぬいていく際の助けとなるツール一式と事例が記載されています。暴力が発生しているあらゆる状況や、暴力への介入は全て異なり、状況を予測することが難しいため、これらのツールはさまざまに組み合わせて使われることを意図して作られています。あなたがなんらかの状況への介入を検討し、介入を進めていくなかで臨機応変にこのツールに立ち返り、プロセスを見直す必要が出てくることもあるでしょう。

 

このツール一式に含まれるもの

  • A. 明確にする
    このツール一式には、(その状況における自分の役割が何であれ)何が暴力の解決になるのかや、支援で入っている他の人たちとどんな情報を共有するべきか、そして共有されたものが最新情報を反映しているか確かめるにはどうしたらいいかなどについて、あなたがより明確に考える手助けをする目的でつくられた質問を盛り込んでいます。また、そこにいる人たちに何度も繰り返し話させることなく、情報と経過を安全に把握し、共有する方法を考えるのにも役立ちます。

  • B. 安全を確保し続ける
    このツール一式はリスク、危険性、安全性といった非常に重要な課題について考えるものでもあります。身体的、精神的、性的、そして経済的など、どのようなかたちの暴力も、時に壊滅的な被害をもたらすことがあります。暴力に対処するために行動を起こすことも、新たなリスクや危険を引き起こす可能性があります。そのためこの章では、段階を踏みながら介入を進めるなかで、安全を保ち、危害を減らすための最善の方法を考えるためのさまざまなツールを提供します。

  • C. アライ*1と障壁をマッピングする
    コミュニティを基盤とした手法は、たとえ人数が2、3人で少なかったとしても、暴力を乗り越えるために人々を団結させます。このツールは、あなたがともに歩むアライとなる人々を検討するプロセスを導きます。また、人々がどの役割を担うのが最善なのかを明確にするのに役立ちます。さらに、障壁となる可能性のある人、危険をもたらす可能性のある人、そして、さらなる支援をもたらすアライとなる可能性のある人を特定するのにも役立ちます。

  • D. 目標を設定する
    このツール一式は、あなたが実際にどんな成果を求めているのかを考えるように導くものです。グループ内のそれぞれの人が、実際には異なる目標を持っているかもしれません。これらのツールは、個人がお互いに矛盾した行動を取らないように、グループの目標が何であるかを考え出すように設計されています。また、非現実的な目標や、願い事のような目標と、一般的な目標、より現実的で自分自身の価値観に合った目標といったように、目標を分類するのにも役に立ちます。

  • E. サバイバーや被害者を支援する
    このツール一式は、あなたがサバイバーや被害者の支援に重点的に取り組み続けるのに役立ちます。対人暴力のサバイバーや被害者を支援するための時間や空間、技術を開発するのを助けるためのツールになっているのです。このツール一式はまた、暴力のサバイバーや被害者が介入とアカウンタビリティのプロセスに参加できるようにさまざまな段階や方法を探求します。

  • F. アカウンタビリティ*2を果たす
    このツールキットは、害を与えた人や人々、暴力を助長した可能性のあるコミュニティと直接対面する人々にとって特に役に立ちます。このツール一式には、アカウンタビリティのたくさんの段階を通じて、どのように害を与えた人と関わるか(「関わる」とは、いろいろな方法がありますが、コミュニティが意思を伝えたり、異議を唱えたり、何らかの要求をしたり、支援をしたりすることなどです)に関するたくさんのヒントやガイドが含まれています。このツールキットは、警察に頼ることなくアカウンタビリティのプロセスを果たすことを支援するものです。このプロセスには、コミュニティの圧力、安全対策の必要性、それによって生じうる結果などが含まれるでしょう。同時にこのツールキットは、晒し上げや処罰、禁止処分などよりも、共感やつながりによるアプローチを可能な限り支持します。

  • G. 協働する
    このツール一式は、あなたのグループがうまく協力しあうのを助けます。私たちの多くはチームで働くことを教えられていません。むしろ私たちの多くは個人の考えや行動を尊重するようにと教えられてきたことが多いです。うまく協働することは、介入を成功させるうえで最も大事な部分であると同時に、最も困難でやりがいのあることでもあります。これらのツールは、どのようにグループがコミュニケーションをとり、意思決定をし、情報をお互いに共有し合っているかについての振り返りを促します。そうすることで、あなたは他者の行動と衝突するような方法ではなくて協調的なやり方で取り組めるのです。

  • H. 経過を追い、把握し続ける
    最後のツール一式は、長いプロセスになる可能性がある中で、あなたが前進し続けていく時の助けになります。これは、熟考し、戦略を練り、先を読み、有益な教訓を見極めていくといった、あなたのプロセスの道標となってくれるでしょう。これには、軌道に乗り続けているかを個人で確認できるセルフチェックなど、グループと個人の両方に有益な要素が含まれています。
    最後に、もし介入が終結に至りそうならば、もしくは介入が終結に至った場合、達成できた変化を将来においても確実に持続するための方法を考慮するためのガイドを用意しています。

第5章.  「その他のリソース(資料、情報、情報源、参考資料)」

第5章では、クリエイティブ・インターベンションズやその他の団体やプロジェクトによって開発されたものを含む有用なリソースを紹介します。

 

5.1. キーワードとその定義
このツールキットに出てくるキーワードや専門用語の一覧表です。私たちが使っている定義とセットになっています。

 

5.2. 体験談と実例
体験者の語りを一箇所に集めて掲載しています。

 

5.3. クリエイティブ・インターベンションズが定める反抑圧に関する方針(反差別/反ハラスメント)
クリエイティブ・インターベンションズの方針の一例。組織内での虐待的な態度や行為を定義し、虐待に対する組織としての方針を述べたものです。

 

5.4. 暴力に対するコミュニティを基盤とした対応についての、1日ワークショップの例*3

 

5.5. 「リスクを取る:草の根コミュニティのアカウンタビリティ戦略の実践」
執筆者: レイプと虐待に反対するコミュニティ
[Communities Against Rape and Abuse](CARA)
CARAによって書かれたコミュニティ・アカウンタビリティを進めるための原則についての有用な記事です。

 

5.6.「暴力と虐待を識別する」
執筆者:コニー・バーク[Connie Burk](虐待サバイバーのバイセクシャル、トランス、レズビアン、ゲイによる北西部ネットワーク
[Northwest Network of Bisexual, Trans, Lesbian and Gay Survivors of Abuse])

北西部ネットワークは、誰が暴力を使っているのかを見極める力関係を査定するための包括的なプロセスを開発しました。北西部ネットワークが行った権力の力学についての分析と、権力の力学が暴力と虐待の違いにどのように関係しているかについて紹介されています。

 

5.7. 「実践の肖像:アカウンタビリティの解剖学」
執筆者:エステバン・ケリー[Esteban Kelly]、ジェンナ・ピーターズ-ゴールデン[Jenna Peters-Golden]
(フィリー・スタンドアップ[Philly Stands Up](PSU))

PSUによる記事。団体紹介と、PSUが開発してきた害を与える人のためのコミュニティ・アカウンタビリティのプロセスについて書かれています。

 

5.8. 「性暴力に立ち向かう:フィラデルフィアの現場における変革的正義(トランスフォーマティブ・ジャスティス)」
執筆者:ベンチ・アンスフィールド[Bench Ansfield]、ティモシー・コルマン[Timothy Colman]
(フィリー・スタンドアップ[Philly Stands Up](PSU))

フィラデルフィアのコミュニティにおける性暴力の状況と、PSUの変革的正義(トランスフォーマティブ・ジャスティス)に関するビジョンについて、PSUのメンバー2人によって書かれた記事です。

 

5.9. 「恥、気づき、回復、修復:回復への実践における倫理」
執筆者:アラン・ジェンキンス[Alan Jenkins]
修復的実践*4に長期にわたり取り組んできたオーストラリアの実践者によって書かれた記事です。

 

5.10. 「セラピストを探すときのヒント(性加害をした人のために)」
執筆者:匿名
この記事は、性加害をした人向けのアカウンタビリティ・プロセスに2年間取り組んでいるある人によって書かれました。セラピーの助けを得てアカウンタビリティのプロセスを経験したひとりの人の視点からセラピスト探しのヒントを紹介しています。

 

5.11. リソース一覧(資料、情報、情報源、参考資料)
これは、コミュニティを基盤とした対人暴力への介入や、コミュニティ・アカウンタビリティ、そして変革的正義(トランスフォーマティブ・ジャスティス)についての入手可能な資料についての簡単なリストです。この一覧には、特に暴力のサバイバーや害を与える人にとって助けになるであろう記事やZINEなども紹介されています。

 

*1:訳注:アライ
allyの辞書どおりの意味は、「味方、 支持者、 同盟国」。https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english-japanese/ally (最終確認日2024年7月30日)

アライの役割や関わり方については、カナダを拠点にしたNPO団体、Pillar Nonprofit Networkのサイトを参照すると理解が深まります。
https://pillarnonprofit.ca/news/what-does-it-mean-act-ally (最終確認日2024年7月30日)

コミュニティのなかのアライについては、
「1.3. このツールキットは誰のためのものですか?」のページをご参照ください。
https://andcommons.hatenablog.com/entry/creative-interventions-toolkit-1_3_WHO_IS_THIS_TOOLKIT_FOR-20240809


*2:訳注:アカウンタビリティ
アカウンタビリティの意味については、1 INTRODUCTION FAQ #3: What do you mean by accountability?のページをご参照ください。
https://www.creative-interventions.org/wp-content/uploads/2020/10/CI-Toolkit-Final-Section-1-Introduction-Aug-2020.pdf
(※翻訳は近日公開予定)

コミュニティ・アカウンタビリティについては、
暴力をなくすための米国のリソースハブ、TransformHarm.orgのサイトを参照すると理解が深まります。https://transformharm.org/community-accountability/?_sft_ca_category=ca-articles
 (最終確認日2024年7月30日)


*3:訳注:5.4. 暴力に対するコミュニティを基盤とした対応についての、1日ワークショップの例
原文ページ:Section.5 Pg.40~49。


*4:訳注:修復的実践
原文は、restorative practice。翻訳は以下のPDFを参考にした。
https://www.jssw.jp/conf/64/pdf/A09-03.pdf